8月12日
毎年この日だけ思い出す人がいます。
30年前、私は秋田のとあるホテルに勤務していました。お盆の時期でもあり、比較的お客様は少ない日でした。
その方は午後9時位に来店され、入り口から3つ目のカウンター席に座り、スコッチのオンザロックをゆっくりと口に運んでいました。
グラスが空になる頃、フロントから内線で連絡がありました。
「え？墜落？大阪行き・・・」
たまたま電話の近くにいたその方は、
「何？墜落？」
と尋ねられたので、
「羽田発大阪行123便が墜落したそうです」
と伝えると、突然、
「大変だ、俺、葬式出される！ちょっと電話して来るからこのままにしておいて」
と言い残して急いで席を立たれました。
小一時間ほどして戻ってこられたその方は、
「今日、墜落したその飛行機で大阪へ帰るはずだったんだ。会議が長引いて慌ててキャンセルしたんだけど、家には連絡してなかったんだ」
と、おっしゃっていました。
氷が解けて水になったグラスを飲み干し、
「同じものをダブルで」
と注文されて、ゆっくりと口に運びながら、
「これまで、イヤイヤ仕事をしてきたけど、今日からは頑張ってしっかり仕事するよ。俺がキャンセルした席に誰かが座ったんだと思ったら、俺はその人の分まで頑張らないとな」
と言って、もう一杯飲んで帰られました。
お名前も知らない方です。当時50歳前後かと思われます。毎年、8月12日に思い出す方です。今でもお元気でいらっしゃることを願っています。
